リズム同期現象を解析する際,結合リミットサイクル振動子で数理モデルを構築する場合が多い。この系をよりシンプルな結合位相振動子へ縮約すれば,実験で測定された時系列データからリズム間結合関数を直接推定することが可能になる。この利点を活かした,リズム相互作用のデータ駆動型解析の需要が高まっている。
しかしながら,リズムを生成する系がいつもリミットサイクルをもつとは限らない。たとえば,ノイズに晒された環境下ではリミットサイクル振動子は強いリズム性を持つカオス系(カオス振動子)と混同されるおそれがある。正当性を抜きにすれば,カオス振動子の時系列データから結合関数を推定することはできる。一方,カオス振動子の時系列を位相振動子モデルに当てはめるのは本来誤りである。では,推定された関数には何かしらの正当性があるのだろうか?
もしカオス振動子系が何らかの位相記述をもつならば,そこから結合関数を計算することができると期待される。そこで我々は,既存の位相縮約理論を拡張し,結合カオス振動子の位相記述を導出する。具体的には,ポアンカレ断面から誘導されるリターンマップの不変測度を計算し,それを使って位相ダイナミクスを平均することで,カオス振動子間のリズム相互作用関数を計算する。理論の検証はいくつかの系を用いて行い,理論から導出された結合関数と,データから推定された結合関数が高精度で一致することを確認している。我々の結果は位相記述が結合カオス振動子に適用可能であることを正当化し,リミットサイクルが存在しない場合でもデータ駆動型結合関数が明確な力学的意味を保持することを示している。

| 氏名 | コース | 研究室 | 役職/学年 |
|---|---|---|---|
| 古川 温馬 | 先端数理科学コース | 非線形物理学講座 | 博士2回生 |
| 今井 貴史 | その他の専攻・大学 | 講師 | |
| 青柳 富誌生 | 先端数理科学コース | 非線形物理学講座 | 教授 |