本研究では, 議論を行うメンバーの属性や思考が似通っている場合に生じる「集団思考」と呼ばれる現象に焦点を当てる. 集団思考は, 代替案や批判的意見の十分な検討が行われず, 早計な合意形成を招くリスクがあることから, 過去の重大な政策失敗においてもその影響が指摘されてきた.
また近年, 大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)を活用したマルチエージェント議論の研究が進んでいる. マルチエージェントによる意思決定は, 単一エージェントと比較して議論の質向上が期待される一方で, エージェント群が集団思考のような集団心理に陥る可能性があり, それによる意思決定の質の低下が懸念される.
本研究では, LLMエージェントを用いたマルチエージェント議論における集団思考の発生を検知し, 対策を講じる枠組みを構築することを目的とする. 具体的には, 以下の2つのアプローチを採用する.
(1)発言の定量的評価と集団思考の検知:マルチエージェント議論における各エージェントの発言を解析し, 集団思考の発生を定量的に評価する仕組みを開発する.
(2)議論修正の促進:集団思考の発生を検知した場合に, 議論の修正を促すメッセージを生成し, 議論の流れに介入することで意思決定の質の低下を防ぐ.
本研究は, LLMエージェントを用いたマルチエージェント議論の質向上を図る新たな方法論を提供するとともに, 生成型AIを活用した社会的意思決定の実践への貢献を目指す.
本研究の成果は, 企業や政策立案の現場における意思決定プロセスの質向上に貢献する可能性を持つ. 近年, 企業においてマルチエージェントを活用した意思決定プロセスが増加しており, LLMを利用したエージェント群の議論が重要な役割を果たしている. 本研究ではLLMエージェント群における集団思考プロセスを検知・修正する仕組みを構築することで, マルチエージェント意思決定の精度向上を目指す.さらに, このアプローチは人間の議論への応用も可能であり, 重大な政策や重要な意思決定の場面において議論のバイアスを最小限に抑えつつ高品質な意思決定を実現するためのシステムを提案する.
氏名 | コース | 研究室 | 役職/学年 |
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清水貴史 | 社会情報学コース | 伊藤研究室 | 修士1回生 |
伊藤孝行 | 社会情報学コース | 伊藤研究室 | 教授 |
丁世堯 | 社会情報学コース | 伊藤研究室 | 助教 |