近年,電子スピンと電流の相互変換を応用するスピントロニクスの研究が行われており,その応用の一つに半導体がある.半導体中では電子スピンが電子の移動と連成しており,電流にも影響を及ぼすため,半導体デバイスのシミュレーションでは電気的性質である電荷と磁気的性質である電子スピンの二つの自由度を用いた数理モデルが提案されている.本研究では,1 次元のバリスティックダイオードに対してスピンの影響を考慮したスピノルボルツマン方程式を数値計算することで,運動論的視点から電子の流れを調べる.具体的には,相空間における電子とスピンの分布関数を計算することで,巨視的な電荷密度やスピン密度の空間分布を求める.また,今後の展望として,電子衝突の平均自由時間とスピン反転時間の比をパラメータとする漸近解析を適用することで,電荷密度とスピン密度に対する流体モデルを導出する.このような流体モデルを用いることで,速度分布関数の計算を経ずに巨視量のみを用いて,半導体内の電荷,スピンの空間分布を求めることが期待できる.
半導体における電荷およびスピンの振る舞いを記述する数理モデルにおいては,信頼性と手軽さを両立することが課題である.特にナノメートルスケールの半導体デバイスにおける電子およびスピンの流れを,比較的短時間でシミュレーション可能にすることは,デバイス設計の効率化に寄与すると期待される.
氏名 | コース | 研究室 | 役職/学年 |
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柴田晴人 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 | 修士1回生 |
田口智清 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 | 教授 |
辻徹郎 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 | 准教授 |