ブロックチェーンは金融サービス,サプライチェーン管理,ヘルスケア,デジタルアイデンティティ管理など透明性や分権性が求められる領域で導入が求められている.その中でブロックチェーンは一般的なDBと比べて,特にスケーラビリティ(処理性能)の低さに問題があるため,実用範囲を広げるため多くのスケーラビリティ改善のための研究が行われている.
ブロックチェーンのトリレンマは,2017年にEthereumの創設者の1人であるVitalik Buterinのブログで初めて紹介され,今では広く知られている.このトリレンマは,ブロックチェーンにおいて,分権性,スケーラビリティ,セキュリティの3要素を同時に達成できないとする主張である.この主張は,ブロックチェーンの性能が多く分析される中で経験的に認識され,一般的に正しいと広く受け入れられてきた.しかし,これまでにトリレンマが数式で表現されたことはない.本研究では,Proof of Workを採用するブロックチェーンにおいて,このトリレンマを表現する数式を示す.また,我々のトリレンマの数式から,トリレンマの制約下でブロックチェーンの性能を向上させる方法は2種に分類できることを示す.
本研究で提案されたブロックチェーンのトリレンマを数式化するアプローチは,産業界において重要な意味を持つ.
①これまでトリレンマは曖昧に受け入れられていたが,トリレンマの3要素のうち,どの要素をどの程度要求すると他の要素を妥協しないといけなくなるかが数値でわかるようになった.そのため,ブロックチェーンを導入する領域ごとでどの要素を最も重視するかでブロックチェーンのパラメータを変更できるようになった.
②トリレンマを数式で示したことで,3要素を妥協せずしてブロックチェーンの性能を向上させる方法が明確になった.そのため,これまでのセキュリティ,分権性を保ったまま,スケーラビリティ(処理性能)を大きく改善できるようになり(手法によってはビットコインの1万倍程度),あらゆる領域でのブロックチェーンの活用が期待される.
氏名 | コース | 研究室 | 役職/学年 |
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中井大志 | 社会情報学コース | 畑山研究室 | 修士2回生 |
櫻井晶 | その他の専攻・大学 | 首藤研究室 | 修士2回生 |
廣中詩織 | 学術情報メディアセンター | 首藤研究室 | 助教 |
首藤一幸 | 社会情報学コース | 首藤研究室 | 教授 |