無人航空機を用いた外洋生活期アオウミガメ幼体の行動観察
A direct measurement of swimming behavior of oceanic-stage green turtles using UAVs.

概要

 アオウミガメ(Chelonia mydas)は、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストにおいて絶滅危惧IB類に指定されている、絶滅が危惧される種である。アオウミガメは、孵化直後の幼体(孵化幼体)が外洋へと遊泳し、外洋で成長したのちに浅海域の採餌場へと加入することが知られている。しかし、孵化幼体の体サイズが小さく、外洋でのサンプリングを行うことが困難であるため、ウミガメ類の生活史初期における行動や拡散に関しての知見は不足している。孵化幼体は「フレンジー」と呼ばれる一種の興奮状態にあり、休むことなく継続的に遊泳を行う。このフレンジー期の継続的な遊泳により、幼体は捕食圧の高い浅海域を素早く抜け、外洋へと到達することができると考えられている。しかし、現在までに行われてきたフレンジー期の行動に関する研究は、室内実験や船舶・遊泳者による追跡にとどまっている。室内実験では、得られるデータはあくまで実験環境中におけるものであり、実際の自然環境下における海流・潮流と行動の関係を調べることは難しい。船舶による追跡では、位置情報以外にフレンジー期の幼体の行動を詳細かつ定量的に記録した試みは少ない。フレンジー期の幼体が、浅海域の動的に変化する環境に応じて行動を変化させていた場合、たとえば幼体の人工孵化及び放流事業などの施策においては、放流するタイミングや場所の選定が、生存率のみならず、幼体のエネルギー消費などに影響を及ぼしている可能性がある。そのため、フレンジー期の遊泳行動に浅海域の環境が及ぼす影響を野外の多様な環境において評価する研究が、保全的観点から求められている。
 そこで本研究は、カメラ・GPS搭載ドローンを用いてフレンジー期幼体を追跡・遊泳を撮影する。これにより、フレンジー期の遊泳行動やエネルギー消費を定量化することを目指す。さらに、漂流ブイを用いて取得した潮流の流向・流速データと合わせて解析を行うことで、フレンジー期の遊泳行動やエネルギー消費が環境に応じてどのように変化するのかを調べる。これにより、上述した既存の二つのアプローチ双方の欠点を補い、実際の環境中における孵化幼体の行動や、周囲の環境に対する行動の変化を詳細に定量化することができる。

産業界への展開例・適用分野

 本研究は、ドローンを用いて得られた動画データから動物の行動を分類および定量化するという点で特徴的である。今後、画像解析技術を用いて行動の分類・定量化を自動化し、ヒト、あるいはウシやウマなどの畜産動物に対して同様の手法を適用することで、畜産動物の管理などのための行動データ取得・解析にかかる労力を低減することが可能となると期待される。

研究者

氏名 コース 研究室 役職/学年
伊地知寛温 社会情報学コース 生物圏情報学講座 博士2回生