医療分野でマイクロ流路を用いた微量検体検出技術が注目されているように,マイクロ流れの理解と制御は近年重要性を増している.流れを調べるためには,流れに乗って運動する微小粒子(トレーサー)を目印として流体中に分散させ,連続撮影した2枚の画像においてトレーサーの位置をそれぞれ測定し,その差分をとればよい.このような測定方法は粒子追跡法と呼ばれる.粒子追跡法では計測領域にトレーサーが必要であるが,従来手法ではトレーサーの位置を自由に操作できないため,所望の計測位置にトレーサーが流れて来るまで待たなければならない.特にマイクロ流れの計測ではブラウン運動(※1)によるノイズが顕著であり,ノイズの低減には多くの画像サンプルを必要とする.そのため,トレーサーの計測位置への偶発的な供給を待たなければならないことは,高い空間解像度と精度を得る上では粒子追跡法の欠点と言える.そこで登場するのが光ピンセットである.光ピンセットは,対物レンズで集光させたレーザーによって,粒子を集光位置に捕捉する技術である.本研究では,光ピンセットを用いてトレーサーを所望の計測位置に配置できるようにする.そして,レーザーのオン・オフを高速で切り替えることで,トレーサーの捕捉・解放を切り替える.トレーサーが流れに乗って運動する解放時に撮影を行い,すぐに捕捉の時間を設け再びレーザーの集光位置にトレーサーを引き戻すことで計測位置をリセットする.この捕捉・解放を繰り返すことで,所望の計測位置において連続的にサンプルを取得することが可能となる.この手法の妥当性を確認するために,自作したマイクロ流体デバイスを用いて正方形断面ポワズイユ流(※2)を形成し,流路内の10点で流速測定実験を行った.その結果,各位置において数分で3000個以上のサンプルを取得することができた.さらに,実験で得られた流れの概形と理論的に予想される形が定性的に一致した.
※1 流体中の微小粒子が溶媒分子との衝突によりランダムに運動する現象.流体の温度や粘性および微小粒子の大きさなどによってブラウン運動の強さは変わり,微小粒子が小さいほどブラウン運動は顕著となる.
※2 正方形断面を有する流路を流れるポワズイユ流.ポワズイユ流とは,流路の両端に圧力差をつけることで高圧側から低圧側へと生じる流れ.この流れを用いた理由は,理論的に解がわかっており実験結果と比較しやすく,また,流速の制御が容易であるからである.
産業への展開例として,PCR検査機やタンパク質やDNAの分析デバイスが挙げられる.これらを開発する際には,化学反応の速度を制御するためにマイクロスケールの流路内での詳細な流れを把握することが必要となる.また別の例として,マイクロポンプが挙げられる.同様に,ポンプ内の流れを制御するためには流路内でどのような流れが起きているかを詳細に調べることは重要となる.
氏名 | コース | 研究室 | 役職/学年 |
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橋本昇磨 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 田口研究室 | 修士1回生 |
辻徹郎 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 田口研究室 | 准教授 |
田口智清 | 先端数理科学コース | 応用数理科学分野 田口研究室 | 教授 |